【専門医試験対策】エタンブトール視神経症
エタンブトール視神経症についてです。
エタンブトール視神経症では、抗結核薬のエタンブトールの内服開始から1ヶ月〜2年程経ってから徐々に両眼の視力障害や視野障害が出現します。
視力障害は両眼とも同程度のことが多いため、その場合はRAPD陰性となります。
視野障害は典型的な中心暗点だけでなく、両耳側半盲となることもありますので視交叉病変とも鑑別が必要です。
特に治療開始から1年以上経ってからの発症もありますので、狙って治療歴を聞く必要があります。
結核だけでなくMAC症などでもエタンブトールは使用されます。
その他フリッカー低下なども認めます。
眼底所見は基本的に正常ですが、軽度のdisc腫脹を認めることもあります。
ちなみに、エタンブトールは脂溶性の薬剤で視神経へ移行することで神経毒性を生じます。
また、それだけでなくエタンブトールには鉄や銅、亜鉛に対するキレート作用があり、亜鉛欠乏とそれによるミトコンドリア呼吸機能障害と神経障害の関連も指摘されています。
特に視交叉での亜鉛含有量が少ないため、亜鉛が欠乏した場合に視交叉障害が起こり、両耳側半盲が起こると言われています。
治療は、まずはエタンブトールが投与されている場合には中止。
神経を栄養する作用のあるビタミンB12の内服を行います。
また亜鉛欠乏がある場合には亜鉛も内服をしますので、採血で亜鉛のチェックも必要です。
エタンブトールを中止してから、6〜8週間程度で視力が回復し始めることが多いです。
しかし中には1年程度かけて回復するものもあり、時には中止から3ヶ月程度は病状が進行することもあります。
ですので事前に患者に説明していないと、治療が間違っていると判断されますので注意です。
視力障害がすすんでから中止したとしても元どおりの視力まで戻る見込みは低いので、早期発見が大切です。
【専門医試験対策】先天網膜分離症
遺伝性網膜疾患の先天網膜分離症についてです。
発症率は5000〜1万人に一人程度で、X劣性遺伝で男児に多いです。原因遺伝子はRS1(網膜分離の英語がRetinoSchisis)
遺伝性網膜疾患ではX-linkは少ないのでこれは覚えておくべきだとなります思います。他ではコロイデレミアがX-linkです。
典型例では就学時前後に視力低下や弱視(多くは遠視性)、斜視などで受診します。
視力は0.2〜0.7と中程度の視力を保つことが多いです。
名前の通り網膜が分離するのが特徴で、OCTで確認すると内顆粒層から外網状層にかけてびまん性の網膜分離を認めます。
ちなみに網膜剥離は視細胞層と網膜色素上皮の間が剥がれますので違いを確認しておいてください。
また、眼底写真では黄斑中心部から放射状のヒダ形成(車軸状変化といって自転車の車輪みたいに見える)が特徴的です。所見は基本的に両眼性です。
また、半数に周辺部にも網膜分離を認め、耳下側が好発部位です。
そして分離だけでなく、周辺部に小口病の金屏風がはげたような、銀箔様眼底とも呼ばれる所見を認めることがあります。
典型的な車軸状変化と銀箔様反射の画像を貼っておきます。(銀箔の方はわかりにくいですが)
そしてERG検査では陰性型のフラッシュ波形が得られます。
【専門医試験対策】網膜色素変性症
遺伝性網膜ジストロフィで最も多い網膜色素変性症についてです。
まず一般的なことから。
頻度は3000〜5000人に一人で遺伝形式は常優、常劣、X劣、ミトコンドリアなどあらゆる形式をとり孤発例もあります。
病態としては桿体錐体ジストロフィと考えていただけばよくて、まず初めに網膜の桿体細胞がやられていき、その後に錐体細胞がやられていきます。
網膜の大多数を占める桿体細胞が障害された時点でERGではflat波形に近づきますので、錐体細胞が残っていて比較的視力良好であってもflatになることがあると言われています。
眼底所見は典型的には両眼に骨小体様沈着物を認め、網膜色素上皮の粗造化(色にムラがでる)、網膜動脈の狭小化を認めます。
網膜動脈の狭小化については見極め方のコツとして、通常の眼底ではかなり周辺まで動脈の分枝まで追うことができるのですが、網膜色素変性症患者では血管が細いので途中で追えなくなりますので、その場合はこの疾患を考慮されると良いと思います。
典型的な眼底所見があれば診断は容易ですが、中には無色素性網膜色素変性症といって典型的な骨小体様沈着物を認めない症例もあるので血管の狭小化が手掛かりとなることがあります。
自発蛍光を撮れば網膜色素上皮の萎縮に伴い輪状の低蛍光を認めます。
無色素性網膜色素変性症の眼底写真です。
動脈の狭小化と網膜色調の粗造化はありますが骨小体様沈着物はありません。
そしてOCTでは網膜外層が薄くなっており、周辺部からEZの不明瞭化をきたします。
また、黄斑前膜や嚢胞様黄斑浮腫の合併もしやすいと言われています。
そして網膜色素変性症患者では、前嚢・後嚢下白内障の頻度が高くチン氏帯脆弱リスクが高いことも重要です。
そしてなにより大切なのが網膜色素変性症を合併する全身疾患が多くあり、専門医試験ではたびたび狙われるのでここはしっかり覚えておく必要があります。
私の知っている限りでは、
Hunter病
Hurler病
Batten病
脊髄小脳変性症
Kearns-Sayre症候群
Cockayne症候群
Alport症候群
Refsum病
Laurence-moon症候群
Usher症候群
Baldet-Biedl症候群
ex.語呂合わせ
「HUNTER×HUNTER好きのセイヤはコカインアレルギー」
HUNTER → Hunter病
× → Batten病
HUNTER → Hurler病
好きの → せきの → 脊髄小脳変性症
セイヤ → Kearns-Sayre症候群
コカイン → Cockayne症候群
ア → Alport症候群
レ → Refsum病
ル → LU → L → Laurence-moon症候群
ル → LU → U →Usher症候群
ギー → ビー →Baldet-Biedl症候群
【専門医試験対策】Heerfordt症候群
Heerfordt症候群について
サルコイドーシスのなかでも稀な症候群で不完全型含めても1〜5%程度です。
以下の4症状を満たすものをHeerfordt症候群と呼びます。
①ぶどう膜炎
サルコイドーシスのぶどう膜炎と同じです。
②耳下腺腫脹
サルコイドーシスの6%程度に認め、多くは両側性です。
③顔面神経麻痺
サルコイドーシスで起こる脳神経麻痺で最も多いのが顔面神経麻痺で両側にみられることもあります。
④発熱
ほとんどが37度程度の微熱で高熱になることは稀です。
1〜4全て満たすものを完全型、1〜3のうち2つと④を満たすものを不全型と呼びます。
本症例は基本的にサルコイドーシスの亜型の一つですので治療はサルコイドーシスに準じます。
顔面神経麻痺を抑えるために経口でのステロイドを使用することが多いです。
あとは他にもサルコイドーシス類縁疾患にBlau症候群と呼ばれるものもあります。
マニアックなので試験対策には不要かもですが一応簡単にまとめておきます。
Blau症候群は乳幼児に発症する常優遺伝の疾患で、非乾酪性類上皮細胞肉芽種からなる①皮膚炎, ②関節炎, ③ぶどう膜炎を3主徴とする遺伝性自己免疫性疾患です。
通常のサルコイドーシスとは別の疾患と区別されます。
3つの症状はほぼ必発で、①から③の順番に症状が出現します。
4歳頃までに皮疹で発症します。
サルコイドーシスには珍しい関節所見が前面に出ること、BHLなどの典型的な胸部所見が無いので、小児のぶどう膜炎としてはJIAなどが鑑別となります。
JIAと違ってBlau症候群では汎ぶどう膜炎となります。
今回紹介したもの以外にもサルコイドーシスには様々な亜型があったり多彩な症状を起こす疾患で、時に診断が非常に難しいです。
生検が出来そうな所見があれば確定診断のためには最も確実なこともあるので積極的に考慮すると良いと思います。
総合内科などの難しい症例検討会でもサルコイドーシスは常に鑑別に残ることが多いです。
ちなみに診断の難しいシス3兄弟(サルコイドーシス、ツベルクローシス(結核)、アミロイドーシス)などとも言われることがあります。
【専門医試験対策】サルコイドーシス
サルコイドーシスについてです。
サルコイドーシスはぶどう膜炎の最も多い原因で、肉芽種性ぶどう膜炎を呈し、ほとんどが両眼性です。
非乾酪性肉芽種病変を特徴としており、眼だけでなく肺、心臓、皮膚、神経など様々な全身病変を伴います。
前眼部所見としては肉芽種性ぶどう膜炎なので比較的大きい角膜後面沈着物(KP)を認め、豚脂様と言われます。
また、虹彩後癒着を伴いやすく全周に渡って癒着が起こるとiris bombeとなりますので瞳孔管理が必要です。
サルコイドーシスは肉芽種を様々な所に作り、前眼部では瞳孔縁(Koeppe結節)や虹彩表面(Busacca結節)などや、隅角にも半透明灰白色の隅角結節という肉芽腫を認めることがあります。
特に隅角結節はステロイド治療が開始されるとすぐに消退するので未治療の段階でしっかり隅角を観察しておく必要があります。
また隅角に関しては虹彩前癒着(PAS)を形成しやすく、特に下方隅角に広範囲にわたって台形状PASを認めることもあります。PASが広範囲に渡ると眼圧上昇の原因にもなります。
ちなみに以前お話した硝子体の雪玉状混濁などと同じく隅角所見も下方に認めやすく、重力の影響があるのだと思います。
見にくいですが、隅角結節の写真を添付します。
矢印の所が隅角結節で、その間の矢頭がPASです
後眼部の所見としては、硝子体中に雪玉状混濁と呼ばれる白い塊状の混濁を認めることがあり、それらが繋がったstring of pearlsと呼ばれるような所見もあります。前記のように下方に見られることが多いです。
写真添付します
眼底では肉芽種性の網膜血管周囲炎が、分節状、結節状に血管に沿ってみられます。
基本的には静脈周囲の炎症がメインです(自己免疫性のぶどう膜炎ではいずれも静脈病変が中心なことが多い)。
また、蝋様網脈絡膜滲出斑と呼ばれる蝋を垂らしたような白い滲出斑が特徴的で、発症から時間が経つと、それらが萎縮してレーザー瘢痕様の網脈絡膜萎縮病巣と呼ばれるPC瘢痕のような病変になると言われています。
これらの所見も下方に多いです。
その他としては脈絡膜や視神経乳頭に肉芽種を形成することがあり、非常にサルコイドーシスに特異度が高いですが頻度は1%程度と低いです。
またサルコイドーシスでは視神経炎を引き起こすこともあります。
ステロイドに反応して良くなる視神経炎のうちで、ステロイドをやめると増悪するといった症例の場合、アクアポリン4抗体陽性のもののような再発性のものを考えると思いますが、それだけでなくサルコイドーシスや真菌、IgG4関連疾患なども鑑別に入れる必要があります。
(副鼻腔真菌症による視神経症でもステロイド投与によりいったん炎症が収まって一時的に良くなることがあります。その後増悪しますが)
以上がサルコイドーシスの基本的な所見です。
眼サルコイドーシスは下記の6項目のうち2つ以上認めた場合に強く疑うと言われています。
1.肉芽腫性前部ブドウ膜炎(豚脂様角膜後面沈着物または虹彩結節)
2.隅角結節またはテント状虹彩前癒着
3.塊状硝子体混濁(雪玉状、数珠状)
4.網膜血管周囲炎(主に静脈)および血管周囲結節
5.多発する蝋様網脈絡膜滲出斑または光凝固斑様の網脈絡膜萎縮病巣
6.視神経乳頭肉芽腫または脈絡膜肉芽腫
そして最後にサルコイドーシスの診断基準について書いて終わろうと思います。
まずどこかに肉芽種があって組織診断することができれば一応確定診断できます。
顔のサルコイド結節などがあれば比較的簡単に生検できるので診断的価値があると思います。
しかし、実際の臨床ではなんとなくサルコイドーシスっぽいなーということがほとんどと思います。
一応上記のように臨床診断のためには呼吸器、眼、心臓のうち2つの臓器でサルコイドーシスを疑う所見がそろっていて、かつ上記5項目のうち2つが当てはまれば診断となります。
眼科ではじめに眼サルコイドーシスを疑って呼吸器内科や循環器内科に紹介しても異常無しと言われても数年たって他の所見が揃って診断に至ることがあるので全身症状の出現にも注意してフォローが必要です。
また特徴的検査所見の項目にACEやリゾチーム、sIL2Rの高値がありますが、以前診断学の所でお話したように異常値(電カルで色が変わっている)イコールサルコイドーシスの診断ではありませんのであくまで参考所見の一つとして考えるというのを忘れないようにしてください。
特にsIL2Rは全身の炎症疾患があれば割となんでも上昇することがあります。
国試では悪性リンパ腫で上がると覚えたと思いますが、悪性リンパ腫の場合はサルコイドーシスの時よりもはるかに高値となる傾向にあります(具体的には5000以上くらい)。
【専門医試験対策】ベーチェット病
ベーチェットについてです。
ベーチェット病はぶどう膜炎の主要な原因の一つで、皮膚や粘膜、消化器、血管、神経など多臓器に障害をもたらす疾患です。
基本的に両眼性で再発性の虹彩毛様体炎を繰り返すのが特徴的です。
初期では片眼であったり前房内cellだけの発作でも、再発と寛解を繰り返すうちに症状が揃ってきて診断に至ることもあります。
前眼部所見としては、毛様充血や眼痛を伴う虹彩毛様体炎が典型的です。
好中球の炎症がメインの非肉芽腫性ぶどう膜炎なので、KPは微細なことが多く、fibrin析出などは稀です。
30%程度に前房蓄膿を伴いますが体位で移動するサラサラとしたものが特徴的です。
虹彩後癒着や、虹彩前癒着(PAS)を起こすこともありますが比較的稀です。
滲出斑とFAG添付します。
また黄斑部は滲出病変に伴うびまん性浮腫や、嚢胞様黄斑浮腫などを起こすこともあります。
黄斑浮腫も前眼部発作と同様繰り返し出現しますので、注意が必要です。
ベーチェット病では再発を何度も繰り返してしまうと、次第に網膜血管は細くなっていき、白線化します。そして色素沈着を伴った網脈絡膜萎縮、視神経萎縮へと至ります。
そうなってしまうと視力予後は悪いので治療コントロールが重要で近年はレミケードやヒュミラなどの生物学的製剤が良好な治療成績をあげています。
末期の眼底写真です。
眼所見以外の重要な所見としては口腔粘膜のアフタ性潰瘍です。
唇、頬、歯肉、舌などに繰り返し現れるのが特徴でベーチェットのほぼ全例に認めると言われています。
痛みを伴い、食事にも支障をきたします。
皮膚所見としては陰部の潰瘍や、結節性紅斑を伴います。
結節性紅斑は、下腿の伸側が後発部位(手にも出ることあります)ではじめは蚊に刺されたあとのようにプクっと膨らんでいます。その後膨らみは消退して赤みだけが残ります。
ちなみに伸側だけのことが多く、屈側に出ている場合には硬結性紅斑といって結核などによるものを考える必要があります。
余談ですがモーツァルトは6歳の時に溶連菌感染によって結節性紅斑を発症したと報告されていて、これが一番古い結節性紅斑の報告ではと言われています。
ちょっと結節性紅斑で広げすぎましたね笑
ただぶどう膜炎を見る際にはこのような皮疹が診断の助けになることはよくありますので、眼科医といえども最低限手足と顔くらいは見る癖をつけると良いと思います。
顔の皮疹の生検でサルコイドーシスの診断がつくこともあります。
【専門医試験対策】ぶどう膜炎【総論】
ぶどう膜炎というのは眼の中で最も血管が豊富な組織です。
血流が豊富なため血流から感染が起こったり、免疫細胞によって自己免疫疾患が引き起こされたりすることでぶどう膜炎は起こります。
ぶどう膜炎は診断が難しい印象があると思います。
その原因には様々な原因疾患があることと、確定診断が難しいことが挙げられます。
さらに専門家による精査でも原因不明ということは多々あります。
しかし現病歴や年齢や性別、発症部位や所見からある程度は絞り込むことが出来るので典型的な所見を一つずつ覚えていくことで一歩ずつ診断に近づくことができます。
例えば年齢に関しては、
ベーチェットは若い男性に多い
サルコイドーシスは20歳と60歳にピークがあり、20歳は女性に多く、60歳は性差無しなど
両眼性や片眼性かだけでもある程度鑑別できます(片眼性と思っていたら両眼性の初期症状として片眼にだけでている場合もありますが)。
全てに当てはまるわけではありませんが、両眼性の場合は自己免疫性疾患(サルコイドーシスや原田病など)、片眼性の場合は感染性(眼内炎やヘルペスなど)が多いとまず覚えておくと良いと思います。
そしてよく鑑別として挙げられる肉芽腫性か非肉芽腫性かということについてです。
上記の通り肉芽腫性の場合はマクロファージやリンパ球が炎症の主体で、細胞は集まっていく傾向になります。
非肉芽腫性では好中球が主体の炎症で、細胞は集まらずにバラバラになる傾向にあります。
肉芽腫性の代表としてサルコイドーシス
非肉芽腫性の代表としてベーチェットを考えてみます。
角膜後面沈着物については、ベーチェットでは非肉芽腫性のため細胞が集まらないために、非常に小さなfine KPのような形になります。
サルコイドーシスでは肉芽腫のためKPも固まっていき、重力に従って下方に特にKPがみられます。これがいわゆる豚脂様KPです。
また前房蓄膿に関してはベーチェットではサラサラというのが有名ですが、これも好中球主体のため細胞が固まったりせずにさらさらになっています。
(眼内炎や感染性角膜潰瘍の場合は好中球だけでなくフィブリンも沈着するのでさらさらな前房蓄膿とはなりません)
そしてFAGですが左がベーチェット、右がサルコイドーシスです
ベーチェットではいわゆるシダ状といわれる所見で、全体的にびまん性に漏出があります。
サルコイドーシスでは肉芽腫性のため全体的にびまん性ではなく強いところと弱いところがありまだらに過蛍光となります。
さらにサルコイドーシスでみられる下方の雪玉状混濁などもマクロファージにより細胞が塊を作ることで発生します。
また、塊になると重くなるので重力に従って下方によくみられます。
ですのでサルコイドーシスを疑う際には必ず網膜の下方をしっかりと見る癖をつける必要があります。